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保育民営化の実態 ~公立保育所が私立になって起こる問題とは~

保育民営化
保育の民営化が保育園不足と待機児童の解消として、相次いで行われています。では、この風潮は良いものなのでしょうか。

■ニーズに保育サービスが追いつかないなどの状況

政府が2017年度末までに「ゼロにする」と目標を掲げている待機児童数が2年続けて増加していることが明らかになりました。

2016年9月2日に、同年4月1日時点の待機児童数が厚生労働省によって公表されましたが、その数は全国で23,553人。また、実質的には待機児童だが「特定の保育施設を希望したため入所できなかった」「育児休業を延長した」などの理由で待機児童数にカウントされない「隠れ待機児童(自治体により保留児童などの呼称もある)」の数も初めて公表されました。その数67,354人。合計で9万人規模となっており「ゼロ」達成は厳しくなっています。

保育の「受け皿」の整備は進んでいるにもかかわらず、ニーズは高まるばかりです。待機児童のカウントの際、基準を統一して「隠れ待機児童」が出ないようにする動きも進んでいるので、政府が堅持するという目標達成もますます不安視されます。地方自治体は保育施設の整備に注力しているのですが、作っても作っても足りない、という状態が続き、保育施設の用地や保育士の確保にも苦心しています。そのための財源確保にも自治体は重要課題として取り組んでいますが容易なことではありません。

■公立保育所民営化、保護者には不安も

高い保育ニーズに対し、地方自治体の財政状況は、厳しいのが現実です。財政の負担軽減策の1つでもあることから、実際に全国の自治体で進んでいるのが公立保育施設の民営化です。この流れは十数年前から始まっていました。2001年から2006年、小泉純一郎内閣は「聖域なき構造改革」をスローガンに経済政策を進めました。「官から民へ」と、官業民営化に力が注がれ、郵政事業や道路関係四公団などが民営化されました。

各地方自治体にも、その時代からの方針が受け継がれていることなどもあり、行政サービスの民営化が「税制負担の軽減」「民間の活力の導入」「質の高いサービスの提供」などを目的に実施されてきました。その中に保育サービスの民営化もありました。2000年代から現在にかけ、公立保育所民営化は続々と進められてきましたが、そこには保護者をはじめとした住民の反対があり、多くの自治体で訴訟にまで発展した例があります。保護者の側からは「コストの削減や効率化により保育の質が低下するのではないか」「子どもが慣れ親しんだ環境が一気に変わる事態を受け入れられない」などの不安、不満があり、簡単に民営化に賛成、とはならないようです。

■民営化で保育の質を保てなくなる?

行政が保育所の民営化を進める際には「民間業者により、公的サービスより保育の質は高くなる」という理論が出てきます。しかし、保護者が心配するのはコストカットにより「人件費」が削られ、保育士の入れ替わりがあるということです。当然ながらベテランの保育者は人件費も高額となりますから、コストを重視する場合には経験年数の少ないスタッフが中心となる場合があります。ベテランによる、きめ細かい保育を期待する保護者にとってはショックな現実です。

また、持病やアレルギー、発達障害などがあり、配慮が必要な子どもに対する「目」そして「手」も行き届かなくなるのではないか、など、これまでの保育から大きく変化することに不安を抱く保護者がいるのは、当然のことかもしれません。民営化の際、人員配置数や安全管理などの最低基準は変わらないので保育料が高額に、ということにはなりませんが、備品や教材などを購入する際の費用が保護者負担の増加という形になるかもしれない、という心配はあります。

■民営化は保育所の廃止? 民営化される仕組み

保育 民営化

 

公立保育所が民営化されると、原則的に保育者は入れ替わりとなります。公立保育所のスタッフは自治体によって雇用されているからです。民営化の際には、これまで公立の施設としてあったものを民間事業者に「移管」する、というパターンが多いようです。「移管」は「委託(公立のまま民間業者に業務を任せる)」と間違いやすいのですが、意味は全く違います。移管するということは、公立保育所を廃止し、民間事業者が新しく私立の認可保育所を設置することです。例え同じ建物を使い続けるとしても、民営化された保育所は、前までの公立保育所とは違うものです。スタッフも新しい民間事業者が雇用した保育者となるので、人員が入れ替わるということになります。

■民営化で子どもを取り巻く環境が変わる

民営化により、同じ施設でも保育者は入れ替わりになる、ということはすでに述べました。同じ場所の同じ建物に通う子どもに対して、全く別の保育者が、全く別の保育の方針や計画によって接することになります。これまでの保育の実態がまるきり別のものになるといっていいので、これまでの「先生」や「遊び」などの環境が変化することに子どもを対応させなくてはなりません。

保育者と子ども達の間には信頼関係があります。その関係をなくし、また一から構築するのは、子どもにとってもたいへんなことです。子どもはその変化をストレスと感じてしまうかもしれません。運営の入れ替えが、何もかも順調にいくという保証はありませんから、その変化の中で戸惑うのは子ども達です。子どもが変化になじめるような工夫が必要です。その具体策が提示されなければ、保護者が民営化に反対する気持ちになってしまいます。

■保育士の雇用の安定性にも影響

保育士にとっては、公立保育所は安定していて、保育の仕事を続けていきやすい職場です。長く勤めたいという希望があって就職した公立保育所が民営化された場合、ほかの保育所に異動するか、さまざまな事情によっては退職しなければならない事態になるかもしれません。また、保育士を目指す人が公立保育所への就職を希望しても、民営化により、その枠が少なくなることもあります。

保育士は不足していますが、個々の事情により「働きやすい」職場でなければ続けられない場合もあります。その安定性に影響があるというのは保育士側からすると不安材料です。保育者は子どもを預かる責任の重い仕事であり、雇用が安定していることは子どものためにも重要です。

■保育所民営化のメリット

地方自治体から「公立保育所を民営化します」といわれたら、子どもを預ける保護者や、勤務している保育士には不安があるのも事実で、第一に子ども、そして周囲の大人達も安心できるような条件を揃えていくことは必要です。その上で、民営化にはメリットも当然、あります。サービスの多様化は、保護者にとって最大のメリットかもしれません。早朝や夜間、休日保育などが可能となり、乳児保育や送迎なども、幅広く利用できるようになるでしょう。さらには独自の教育法やカリキュラムなども取り入れることができます。運営に「融通がきく」ようになることから、要望や意見が通りやすくなることも期待できます。

保育者も保育方針等について、より自由に発言し実行できる環境になる可能性があります。運営側が「効率第一」、保育者は「安定雇用」、そして保護者が「利便性」だけを考えていては、子ども達の安心できる安全で健やかな居場所である保育施設は作ることができません。運営する側、保育者、保護者ともに、どうすれば子ども達がより良い環境で成長できるか、協力して考え、保育に参加していくことが求められます。

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