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環境や教育次第でどんな子どもも発達できる! ワロンの発達理論とは?

ワロン
児童の発達研究において、ワロン(Wallon, Henri 1879-1962)という心理学者を知っていますか?ワロンは「集団の関係や環境、身体感覚」というアプロ―チから子どもの発達を研究しました。今回はピアジェともよく比較されるワロンの発達理論について説明します。

哲学者・精神医学者・発達心理学者として ワロンの研究背景

ワロンの発達理論はさまざまな側面から検証を行っているので、とても複雑です。これは、ワロンの専門が初めから心理学ではなかったということも影響しています。発達理論を読み解くために、まずはワロンの背景をみていきましょう。

ワロンは、高等師範学校で哲学を学び、1902年に哲学教授資格を取得しました。驚くことに、ワロンの学問の始まりは哲学だったのです。そして、その後は医学の道へ進み、妄想という精神分野の研究で医学博士号を取得します。

ワロンの医学研究は「組織学」と呼ばれる「身体の細胞や臓器の機能・構造」に注目する形式をとっていました。

医学博士号を取得した後は、医師の助手として病院に勤めます。途中、第一次世界大戦で軍医を任されるなど、中断期間をはさみながら1931年まで病院で働き続けました。

そして、病院で勤めている間、発達遅滞児や障害児の臨床研究を行います。

この成果をまとめたものが、『乱暴なこども(L’enfant turbulent)』(1925)という彼の著名な博士論文でした。

彼が発達心理学者と知られるようになるのは1930年代以降のことになりますが、以前に学んだ哲学や精神医学の臨床研究は後の発達理論に活かされていきます。

幼児の人格成長 社会や身体との関係から

 

ワロンの発達心理

 

ワロンは幼児の発達を、人との関わりや身体感覚からの影響というように、幼児の内部と外部の双方から論じています。ワロンの考える幼児の人格発達をくわしく説明してきます。

情動と身体の関係

生まれてすぐの乳児は、睡眠・栄養摂取・排泄といった生理現象に多くの時間を費やします。このときの乳児の心は、眠気、空腹感などの内部感覚に支配されているのです。

その内部感覚は「泣く」といった身体表出を伴う感情(情動)を引き出します。親は乳児が泣く様子を見て子どもの世話をします。

泣いている乳児をあやすとき、親は乳児を抱っこしてゆすったりして落ち着かせることもありますよね。

この行動は子どもの平衡感覚を刺激して、三半規管を整えることにもつながっているとワロンは主張しました。

すなわち、子どもの泣くという情動が、親という大人の関与で、自己受容感覚(自分が感じる感覚)刺激することになっているのです。

こうした関係性は子どもから親といった一方通行のものではなく、子どもも親から影響を受けて新たな情動を発生させるという双方向の関係になっています。

この関係を繰り返し、生後6ヶ月には「悲しみ・怒り・苦しみ・喜び」といった基本的な情動が整えられていくようになります。

乳児が1才になるまでの時期に、親だけでなく、周囲のさまざまな人から刺激を受けることで、自分自身の感覚が刺激されて豊かな感受性を身に着けられていくのです。

自己と他者の関係

生後1才頃になると、子どもは矛盾を感じるようになります。自分の予測していたことと実際の結果が違うといったことに気付き始めるのです。

例えば、好きなおもちゃで遊ぶつもりだったのに、実際にお友達が使っていて遊べないなんてことですね。

子どもはこうした他者とのやり取りで、自分の感覚の中に他者を見出していくのです。しかし、最初の段階では自己と他者を区別することができません。

子どもはさらに人や社会に関わっていくことで、他者と自己の感覚に生じる矛盾に気づき他者の感覚を分離することができるようになります。

「〇〇くんはこれ嫌いだけど、僕は好き!」

といったように自分の立場を主張するようなれば、他者と切り離された自我意識が子どもに芽生えたといえるでしょう。

生きるための活動として始まった幼児の内部情動が、親や社会といった外部環境の影響を受けて自己意識として育てられていく。子どもの身体構造から始まるこの理論はワロンの医学研究が活かされているともいえますね。

ピアジェと比べるとワロンの評価は…?

ピアジェはワロンと同時代の研究者であるので、ワロンの研究においてピアジェとの比較は頻繁に行われています。そして、ワロン自身もピアジェの研究と自身の研究を比較していました。ワロンはピアジェの研究を認めつつも、以下の点を批判しています。

「ピアジェの発達理論は個人を対象とした限定的なものに過ぎない」

「社会を通した成熟や集団との関わりで生じる思考を無視している」

ピアジェの発達理論は、子どもが社会に適応していく過程を子どもの主体的な思考を基準にして考えていくものです。ワロンはその理論を、集団との関係性を考慮しておらず子ども個人の中で終わってしまっていると批判したのでした。

しかし、発達理論で有名なのはピアジェです。というのも、ピアジェは発達の要因を児童の主体性に求めるというモデルが明確で、注目を集めるような実証実験を数多く実施していたからです。(同じ量の水を細長いコップと幅の広いコップに入れて、どちらが多く水が入っているか質問するという量の保存の法則実験が有名ですね。)

ワロンの発達理論は、ピアジェのように実証的な実験に力を入れたわけではなく理論中心であったので、心理学の分野では埋もれてしまいました。さらに、ワロンは生まれてすぐの乳児と原始人を比較するなど、自身の専門とは関連のない人類学を根拠にして発達過程を論じることもありました。こうした姿勢が、ワロンの立場をあいまいにしているとも考えられます。

現代の臨床心理に通じる!ワロンの多角的視野

けれども、ワロンの多面的なアプローチは評価に値する部分です。

ワロンは神経学・心理学・人類学・哲学・社会学などなどさまざまな学問を総合して、発達を論じました。この多分野からの研究は、著書の『乱暴な子ども』にあるように、発達に障害がある子どもを研究の対象にしているからこそともいえます。

どこに問題があるかわからないから、問題を単純化して考えずに心・身体・環境すべてを考慮して研究していく姿勢がワロンにはありました。

そして、環境や教育といった外部のアプローチで、子どもを発達させることは可能とも、ワロンは主張しています。

これは現代の発達障害をもつ子どもに対する臨床心理士のアプローチに共通しているのではないでしょうか?

臨床心理の中で子どもの特性を知るために、学校や家庭などのアセスメントをするなど、子どもの行動を見る視点を広くしていますよね。

ワロンの発達理論は、子どもの発達支援の実践において重要な姿勢を示しているといえるでしょう。

http://www.gakushuin.ac.jp/univ/let/top/publication/res_pdf_62/013.pdf

 

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