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ルソー:『エミール』と消極的教育とは?知識よりも経験を重視した保育

ジャン=ジャック・ルソー。
この名前を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。ルソーは18世紀のフランスで活躍した哲学者で、社会契約論など政治哲学の分野で近代の民主主義システムの構築に大きな貢献をした人物として歴史の授業で習った人もいるかと思われます。
しかしルソーは単なる政治哲学者ではありませんでした。植物学についての著作を発表していたり、作曲家としても活動するなど、非常に多才な人物だったのです。
そしてなにより興味深いのが、ルソーは保育や幼児教育に関することについても本を出版していて、その内容が実に先見性に富んだものであったということです。
今回の記事では、ルソーが唱えた保育と幼児教育に関する考え方を紹介していきたいと思います。
ルソーの教育観
『エミール』の出版と消極的教育
ルソーは1762年に『エミール』という本を出版しました。この本は今でも教育学の名著として読まれています。
そして、この本に書かれたような彼の思想はその後のフレーベルやマリア・モンテッソーリといった幼児教育・保育手法の実践者の思想に大きな影響を与えているといわれています。
ルソーの教育観を一言で表すと、「消極的教育」という考え方になります。
つまり、大人があれこれ教えるよりも、子どもたちが自発的に行動し、大人はあくまでもそれを援助する存在であるべきだということです。
これは、現代の私たちが保育の場で実践している教育内容の基礎的な考え方と共通しています。
知識よりも経験
ルソーは、「知識を与える前に、その道具である諸器官を完成させよ。感覚器官の訓練によって理性を準備する教育を消極教育と呼ぶ」と自著『エミール』のなかで自己の教育観を提唱しています。
知識を詰め込むよりも、運動や様々な経験を通して、子どもたちの心身を鍛えることを最優先に考えているのです。このような考え方も、現代の保育や教育法に通じるところがあります。
子どもは「未完成の大人」ではない
ルソーは子どもを「未完成の大人」とは見ませんでした。子どもを大人とは全く違う生き物であり、子どもには子ども固有の世界観があるのだと考えました。ルソーの生い立ちは非常に不幸なもので、彼は社会に対して大きな不信感を持っていました。彼の考えのなかでは、人間は生まれた瞬間(自然状態)が善であり、そのような子どもたちに文明や文化を教えるということは、堕落の道へと導いてしまうというものでした。これがルソーの「消極的教育法」の根となっている部分です。ちょっと大げさかもしれませんが、ルソーの生い立ちと彼の生きていた時代背景を考えれば不思議なことではありませんし、現代に通じる部分も多々あります。
本当の教師は父親であり、本当の乳母は母親である
“本当の教師は父親であり。本当の乳母は母親である”
これはルソーの残した有名な文言です。これは、「世界でいちばん有能な先生」よりも「分別のある平凡な父親」のほうが子どもを「立派に教育」することができるという意味です。母親は子どもに愛を注ぎ、父親は子どもを社会の一員たる人間とする。それがルソーの考え方です。
しかし、そのように言っているルソーも5人の子どもたちを生まれてすぐに施設に捨ててきたという過去を持っています。ルソーの教育観にはこのような自身の行動への反省の一面があるのも事実です。
おわりに
ルソーの教育法は、確かに時代背景や文化など様々な点で現代とは異なる部分が多いため、そのまま参考にできるものではないかもしれません。
しかし、これだけの時を隔てていても通じる部分が少なからずあるという事実はルソーの先見性を物語っているといえるのではないでしょうか。